こんにちは。さいたま静脈瘤クリニック医師の神作です。
今日は血栓の話を書こうと思います。
目次
静脈瘤があったら、血の塊(血栓)の心配をした方がいい?
ときどき患者さんから「静脈瘤があると、血が固まりやすくなるんですか?」と聞かれることがあります。
確かに、静脈瘤のある方は、静脈瘤のない方と比べて、静脈に血の塊(血栓)があることが多いと言われています (*1) が、頻度は高くないので、患者さんは心配しなくてよいと思います。
ただ、医療者側は、静脈瘤を含めて血の塊の可能性がある方は慎重に調べます。
血の塊の場所によっては逆に静脈瘤の手術をしない方が良い場合もあるので、受診の際には、血管の状態を診て、どのような対策があるか、ご説明しています。
ちなみに静脈瘤がある方でも、基本的に脳梗塞や心筋梗塞など、動脈の血の塊については気にしなくてよいです(動脈の血栓と、静脈の血栓は医学的な重要性が異なります)。
新型コロナウイルスと血栓について分かっていること
ところで、最近では、新型コロナウイルスと血の塊の関係について質問をされることもあります。
実際、新型コロナウイルスに感染すると、血の塊が出来やすくなると言われています (*2,3)。
一方で、感染するよりもだいぶ少ないとはいえ、アストラゼネカ製のワクチンで血栓症がわずかに増える (*4) というニュースは覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルスは強い炎症と関わっていて、それが血の塊を作りやすくすると言われています (*5)。
……という話を聞くと、じゃあどうしたらいいの、と聞きたくなりますよね。
下肢静脈瘤がある方に対して、新型コロナウイルスが与える影響は、まだ分からないのです。まだ分からない、と言われると不安に感じるかもしれませんが、静脈瘤の患者さんはとても多いので、大きな影響があれば既に明らかになっている可能性は高いです。これについては、新しい情報がありましたら、また書きますね。
まだ分からないということは、そこまで大きな影響はないことが期待できます。言い換えると、患者さんが神経質になる必要はないと思います(医療者が気にすればいいレベルのことだととらえています)。
どのタイミングで病院に行けばいいの?
一方で、静脈瘤があってもなくても、突然あし(特に片あし)がむくんだ場合には、当院など静脈エコーのある医療機関を早めに受診することが大事です。
静脈の血の塊は、肺に影響を及ぼすことがあるので、万が一息が苦しいならば、より大きい病院を受診することをお勧めします。なお、医療機関は受診する前にご一報いただければ助かります。
受診を迷った際は、当院にお電話いただいて大丈夫です。
最近はインターネットで、たくさんの情報を得られるのですが、それをどのように解釈すればいいのか、悩むことがあると思います。
患者さんの体の状態に従い、どのような情報をどのように考えればいいか助言することも私たちの仕事なので、心配なことは、お気軽にご相談くださいね。
お問い合わせ先
電話:048-229-5056
予約フォーム:https://medical.apokul.jp/web/223/reservations/add
お問い合わせメール:https://saitama-varix.com/cms/contact
詳しく知りたい方のための補足
*1) アメリカ医師会の出しているすごく有名な医学誌には、約 100 万人を調査したところ、静脈瘤のある患者さんの 0.655% に体の奥の静脈に血の塊(深部静脈血栓症)がある一方で、年齢や性別などが同じような静脈瘤のない方では、0.123%しかいなかったと報告されています (JAMA 2018;319(8):807-817)。
*2) 英国呼吸器学会の出している有名な雑誌には、約 64,000 人の COVID-19 の患者さんの情報を集めたところ、14.7% の方にCOVID-19 に関連したと思われる血の塊(静脈血栓塞栓症)があったと報告しています。(Thorax 2021;76:970–979)
*3) 米国予防医学雑誌では、アメリカ人では静脈血栓塞栓症は 1000 人に 1 人か 2 人と報告されています。(Am J Prev Med 2010;38(4S)S495–S501)
*4) 英国医師会の有名な雑誌では、約 2000 万人のアストラゼネカ社製ワクチンを接種した方と、約 1000 万人のファイザー社製ワクチンを接種した方のデータを集め、アストラゼネカ社製ワクチンで静脈血栓症は増加したけれど、ファイザー社製ワクチンでは増えなかった(ただし動脈血栓症に関与していた)と報告しています。(BMJ 2021;374:n1931)
*5) 米国生理学会のたくさん論文をまとめた報告(総説)では、COVID-19 の血栓症には肺の損傷や炎症が関わっていると説明されています。(Physiol Rev 2021;101: 545–567)