こんにちは。埼玉県川口市にあります、さいたま静脈瘤クリニック医師の神作です。
先日ご相談があったので、循環器専門医および脈管専門医である、静脈専門の医師としての立場から、ピルの話を書きたいと思います。
レディースクリニック (婦人科) のウェブサイトなどと併せてお読みいただくと良いかも知れません。
ピルの効果
1999 年に厚生労働省で認可されて以来、日本でも避妊目的で低用量ピルを使用できるようになりました。
低用量ピルは避妊だけではなく、月経不順や月経過多、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)、月経痛、肌荒れなどにも効果があります。
このように、ピルは女性の体をコントロールする、大変有用な薬ではありますが、重大な副作用として、血栓症(血のかたまり)がおきます (*1)。
静脈に血のかたまりが出来たら何がおきるの?
ピルは特に静脈(全身から心臓に流れる血管)の血栓症を増やすと言われています。
静脈の血栓は、あしの奥にできることが多く、一部の方では肺に流れていきます。
このように、体の奥の静脈に血のかたまりができた状態を「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」とよびます。
あしの奥の静脈に血栓ができると、突然あしがむくみ、赤みが増したり、紫色になったり、色が変わってしまいます(通常、片足だけに症状が出ます)。
このような場合は、通常、超音波(エコー)検査と専門的な知識が必要なので、当院のように静脈を診られる医療施設(血管外科・心臓血管外科・循環器内科など)を受診してください。
更に、肺に大量の血栓が流れると、肺がきちんと働かなくなり、息切れや胸痛が起きることがあります。
肺に血栓が流れて行った場合は「肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)」とよび、血栓の量によっては、命に関わる病気です。これは、エコノミークラス症候群という名前でも知られています。
なお、肺血栓塞栓症のことを「肺塞栓症」と説明することもあります。
肺血栓塞栓症は、通常、CT 検査を行うので、クリニックではなく、大きな病院の受診が必要です。
ピルは動脈にも血のかたまりを作る
ピルは動脈(心臓から全身に流れる血管)の血栓症も起こします。
動脈の血栓は、脳や心臓の血液の流れを悪くして、脳梗塞による麻痺(体を動かしづらい・触っている感じが分からない・しゃべりづらい、など)や心筋梗塞による動悸や胸痛などを起こします。
脳梗塞の症状が出た場合は脳神経外科や(脳)神経内科を、心筋梗塞の症状が出た場合は循環器内科を受診してください。
症状が強い時はどうすればいいの?
静脈の血栓も、動脈の血栓も、緊急に検査が必要なこともあるので、各施設に電話をしてから受診することをお勧めします(症状の程度に寄りますが、優先して診察することが多いです)。
重症の場合は、クリニックではなく、入院設備のある病院の救急外来を受診する必要があるかも知れません。
救急車を呼ぶかどうか迷った場合は、救急安心センターセンター事業 (#7119) に電話をかければ相談できます。
脳や心臓以外にも、血栓は様々なところの血液の流れを悪くします。
腹痛やあしの痛みなど関係なさそうな症状でも、医療施設を受診するときは、ピルを飲んでいる方は、そのことを仰ってください。とても重要な情報なのです。
特に、手術をなさる方や、ベッドの上でも動きづらい方は血栓が起きやすいので、ぜひ、ぜひ、教えて下さい!
問診表に書きづらくて、看護師や医師に、口頭で仰る方もいらっしゃいます。それでもいいので、私たちに知らせて下さい!
症状のない血栓
症状が出るほどでなくても血栓ができていないか、ピルを処方しているレディースクリニックなどで、定期的に検査をすることもあります。
「D-dimer(ディー・ダイマー)」という血液検査をすることが一般的です。
検査で血栓が疑われた場合、検査をした医療施設と相談をして、必要であれば当院のような静脈を診られる施設を受診してください。
なお、喫煙者の方は血栓症になりやすいので、ピルは使いづらいです。
ほかにも血栓のできやすい方 (*2) はいらっしゃるので、レディースクリニックの先生とよくご相談いただければと思います。
当院の特長
当院は現在、女性医師のみなので、お仕事への影響やパートナーとの関係など、デリケートなお話もしやすいと思います。
ご妊娠の際の血栓症 (*3) やむくみ、静脈瘤など、女性特有の体の変化についても丁寧に検査し、分かりやすく説明しますので、気になることはいつでもご相談くださいね 。
受診を迷われた方は、お気軽にお電話いただければと思います。
埼玉県川口市の方々はもちろん、群馬県、東京都、近隣他県からも患者さん、いらっしゃいます。
メールでのお問い合わせも出来ますので、ぜひご利用ください!
電話:048-229-5056
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< 詳しく知りたい方のための補足 >
*1) ピルを飲んでいる方では、飲んでいない方と比較して、3.25~4.0倍、血栓ができる可能性が高くなると言われています。
ピルを飲み始めて最初の1年は特に血栓ができやすいという報告もあります。(低用量ピル添付文書)
*2) 静脈血栓症のリスクは下記のようなものがあります(日本脈管学会専門医制度委員会)。
一次性:アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症)、高ホモシステイン血症。
二次性:高齢、外傷・骨折、肥満、長期臥床。
疾患としては、高リン脂質抗体症候群、ネフローゼ症候群、COVID-19、うっ血性心不全、炎症性腸疾患、下肢静脈瘤など。
*3) 妊娠により、静脈血栓塞栓症の発症は、5~6倍になると言われています。(BMJ 2017;359:j4452)
妊娠中は下肢の静脈容量および静脈圧が増大して、うっ滞が起きやすく、更に妊娠自体が凝固亢進をきたすため、血栓ができやすいのです。(Thromboembolic Disorders in Pregnancy – MSD Manual)